札幌高等裁判所 昭和54年(行コ)10号 判決 1980年10月29日
控訴人(被告) 札幌市長
被控訴人(原告) 石井軍司
主文
本件控訴を棄却する。
控訴審の訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実
第一当事者が求める裁判
一 控訴人
「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決。
二 被控訴人
主文と同旨の判決。
第二当事者の主張及び証拠関係
当事者双方の主張及び証拠関係<省略>は、次に記載するほか、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所も、控訴人が被控訴人に対して昭和五三年五月四日付でなした懲戒免職処分は、社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権を濫用した違法な処分であつて、取消されるべきものと判断するものであり、その理由は、次のとおり訂正するほかは、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。
原判決の、
1 八枚目表五行目の「私生活上」から八行目の「解される」までの部分を、「同号にいう非行は、職務の執行について行われたものであることを要せず、またその内容が担当職務と関連性のあるものであることも要しないと解するのが相当である」と改める。
2 九枚目表二行目に「午後一〇時ころ」とある次に、「から」を加入する。
3 九枚目表一一行目に「いたため、警察のパトカーに発見され、」とあるのを、「いたのを、いわゆるパトカーにより交通取締を行つていた警察官に発見され、」と改める。
4 九枚目裏二行目に「進入通過し、同所の」とあるのを、「進入通過したうえ、右交差点からさらに約一二〇メートル余り走行し、走行していた幅員約五メートルの道路が進行方向の左方へ湾曲していたのに、直進したため、右道路の進行方向右側の路外にある」と改める。
5 九枚目裏五行目に「酒気帯び運転」とあるのを、「酒酔い運転」と改める。
6 九枚目裏八行目に「原告の所属する札幌東清掃事務所では、」とあるのを削除する。
7 九枚目裏一〇行目に「同事務所」とあるのを、「原告と同じく札幌東清掃事務所」と改める。
8 一〇枚目裏六行目から八行目までの部分を、「(六) 原告は、警察官及び検察官に対しては、自己の犯罪事実を素直に供述しており、被告に宛てて提出した事実弁明書及び札幌市の人事担当職員による事情聴取においては、右の捜査官に対する供述と一部異る趣旨の、信用できない弁解もしてはいるが、一貫して改俊の情を示していること」と改める。
9 一〇枚目裏九、一〇行目の部分を、「(七) 原告は、その勤務状態が優れていたとはいえず、また昭和四九年一〇月頃以降、従前の借家居住から自己所有家屋居住に変つたにかかわらず、その届出をしないで引続き借家居住者としての住居手当の支給を受けていたものであるが、これまで、被告から分限、懲戒処分を受けたことはないこと」と改める。
10 一〇枚目裏一一行目に「過去」とある次に「約」を加入する。
11 一一枚目表一〇行目から一二枚目表一〇行目までの部分を、次のとおりに改める。
「4 そこで本件処分について検討する。
(一) 飲酒運転は道路交通法違反行為の中でも、特に危険度の高い悪質な行為であることは明らかであり、さらに、前記のとおり、原告の行為の約四箇月前に、原告と同じ職場所属の職員が、飲酒運転により業務上過失傷害事件を起して懲戒免職処分を受け、原告は、その後約三〇回に及ぶ交通事故防止の指導と飲酒運転をすれば懲戒免職にする旨の警告を受けていたものであるから、それにもかかわらずあえて飲酒運転をした原告の行為は、決して軽微な非行ということはできない。
(二) しかしながら、前記のとおり、(1)原告の行為は純然たる私生活上の非行であり、(2)幸いにして人身事故、その他他人に被害を及ぼす結果を生じておらず、(3)原告は逮捕されて以来一貫して改悛の情を示しており、(4)原告には前科はなく、道路交通法違反の反則行為三回の前歴があるだけで、本件事故については、略式命令による罰金刑ですみ、また分限、懲戒処分を受けた前歴もない。
(三) (1) 前記のとおり、原告は札幌市衛生局清掃部に所属して、単純な労務に従事していた者であることからすれば、公務員であるとはいつても、通常の一般市民に比して特に高度の倫理性の保持を要求、期待される者ではないということができるから、原告の行為によつて、札幌市職員の名誉、信用が毀損された程度は、さほど著しいものではなかつたと考えるのが相当である。
(2) 前記のとおり、地方公務員に対する懲戒処分を行うときに、如何なる懲戒処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されており、したがつて、各地方公共団体における職員の職務遂行秩序の維持に関する方針の相異に基づいて、各地方公共団体における懲戒処分の実施についての基準(地公法は具体的基準を定めていないが、懲戒処分は当該地方公共団体の職員については、公平に行わなければならないから、各地方公共団体は懲戒についての具体的基準を定めておくべきであるということができる。)に差異が生じることは、何ら異とするに足りないけれども、各地方公共団体における懲戒処分の実情は、斉しく地公法による身分保障を受ける地方公務員に対する懲戒処分の妥当性についての社会観念を推知するうえで、軽視できないものということができるところ、原告の行為前の約三年間、道内においては、人身事故を起こさず、罰金刑に処せられた飲酒運転の行為に因つて、懲戒免職処分をした例は、警察官に対するものを除いては、見当らないことは前記のとおりである。
(四) 右(二)、(三)に述べた諸点並びに懲戒処分は職務遂行秩序の維持を主たる目的とするものであること及び免職処分と他の懲戒処分との間には、被処分者が受ける不利益に隔絶的な著しい差異があることを総合して考えると、前記のとおり、原告には住居手当の受給について不正があつたことを併せ考えても、原告に対する本件処分は、社会観念上甚しく重きに過ぎて、著しく妥当を欠くものであつて、裁量権を濫用したものと認めるのが相当である。」
二 当審において新たに提出された証拠は、右一の認定事実、判断を動かすものではない。
三 よつて、本件処分を取消し、被控訴人の請求を認容した原判決は相当であるから、行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第三八四条により本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第九五条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 輪湖公寛 寺井忠 八田秀夫)